だいじょうぶ?マイペット

獣医師評論【コラム】

二本松 昭宏先生

にほんまつ動物病院

二本松 昭宏先生

目指しているのは、「治して欲しいという気持ちに、治してあげたいという気持ちで応える獣医師」です。患者さんとの良い信頼関係を築くためには、しっかりした説明をしたうえで、飼い主さんがよく理解し、飼い主さんがご自分にとっての最良の選択をできるようお手伝いすることが大切だと思います。疑問に思ったことは率直に尋ね、よく理解・納得したうえで、治療をしてあげて下さい。

獣医師が打ちのめされる瞬間

動物病院には、いろいろな病気の動物が訪れます。その中には治りやすい病気もあれば、治りにくい病気もあります。また、きちんと治療しても反応が悪かったり、死んでしまったりする動物もあります。

獣医師にとっては、“動物の死”は、必ずしも敗北ではありません。この世に生を受けたものは、必ず死を迎える運命にあり、また、治療したとしても一定の確率で死に至る病気というものもあります。

18才の高齢猫の腎不全で来院されたとき、「昔のように元気にしてくれ」と言われたとしても、その願いにこたえることは不可能です。獣医師は神様ではなく、獣医師ができるのは、「自分の力でやっていけるところまでの手助けをしてあげる」というところまででしかないからです。

やるべきことをし、できる限りのことをしたとしても、死に至る場合はあります。獣医師にとって、死は、すなわち敗北ではありません。

そうは分かっていても、診療をしていると、打ちのめされ、心を砕かれそうになる瞬間は時折やってきます。獣医師にとって、一番苦しいのは、「誠意が伝わらず、恨まれて終わったとき」です。獣医師は神様ではなく、きちんと治療をしても、良くならないこともあり、死に至る症例もあります。でも、しばしば、飼い主さんはそうは考えてはくれません。

「動物病院に連れてくれば、助けてもらえると思ったのに」

「手術すれば、100%助かると思っていたのに」

やれるだけのことをやって、それでもだめだったとき、飼い主さんからそう言われると、胸が痛みます。

もちろん、治療しても予後が悪いことが予想される場合は、前もってそのことを飼い主さんにできる限り伝えます。インフォームドコンセントの鍵は、現状をきちんと理解してもらい、その上で飼い主さんに最善の選択をしてもらうことです。だからこそ、治療の前に、手術の前に、良くならない可能性まで含めて、起こりえる可能性を思いつく限り説明します。病気の説明を書いたプリントも飼い主さんに渡すようにしています。

それでも、誠心誠意説明し、力を尽くして治療しても、誠意が伝わらなかった場合、良くならなかったという結果に対して、「こんな事になるとは思わなかった」と言われることがあります。

僕たち獣医師が向き合う対象は、「生きている命」です。

命はものと違い、100%の見通しを持つことは不可能です。また、急変したり、思ってもいない展開になる可能性もあります。でも、生きている命だからこそ、いろんな思いが込められている命だからこそ、獣医師は精一杯説明し、精一杯治療します。精一杯治療してもだめだった場合、その誠意が伝わっていれば、多くの場合、飼い主さんは納得してくれます。

でも、誠意が伝わらず、恨まれて終わったときは、本当に落ち込みます。動物を飼っている以上、飼い主さんには「今までこの子を飼っていて良かった」と言って欲しいですし、動物病院に来てくれた人には、「この病院に来て良かった」と言って欲しいと願っています。

動物病院に来た人はみな、「何とかして欲しい」と願って病院を訪れています。

獣医師は、その願いにこたえられるよう、誠意を持って対応しようとします。

誠意を尽くすと言うことは、いわばこちらの心を向こうにさらけ出すということです。向こうに心をさらけ出しているときに、むき出しの心を相手からハンマーで殴られたとしたら、獣医師としては、深く傷つきます。獣医師と言ったって、心を持ったひとりの人間であることに変わりはありません。

一方で、飼い主さんの心情を考えれば、獣医に怒りが向かうことに理解はできます。助けてもらえると思って病院に連れて行ったのに、治療しても助からなかった場合、「絶対に助けてもらえる」と期待していたとしたら、大切な存在を失ったときの、その感情のやり場は、当然、治療した獣医師の側に向かうであろうと予想されるからです。

それでも、一定の確率で、動物の予後が良くなかったり、死んでしまった場合はおこります。

そんな時、飼い主さんにとっての動物病院への評価は、「納得できたかどうか」にかかっていると思います。だからこそ、獣医師から、飼い主さんに対して「精一杯動物と飼い主さんのことを思い、治療している」ことが伝わっていなければならないのだと思います。

恨まれて終わってしまった場合、その原因が獣医師側にあるのか、もしくはそうではないのかということは、とても悩むところです。飼い主さんは、病気を良くしてもらうことを期待して、動物病院に動物を連れてきます。でも、すべての病気を100%なおせと言っても、残念ながら、それは不可能です。一定の確率で、治らない病気というものも来ます。また、そのときに、精一杯治療していたとしても、こちらの誠意が伝わらないこともあります。

でも、そこで、誠意が伝わらないからと言って、心の間に壁をつくり、感情を込めないようにして治療するということはしたくはありません。

自分の心を大切にしながら獣医師という職業を続けていくのであれば、「動物に良くなって、飼い主さんに喜んで欲しい」と願いつつ、一方で「一定の割合で、誠意が伝わらないこともある」と心にとめ、その上で、より誠意が伝わっていくように、より良い接し方、説明の仕方を模索していくしかありません。

感情を持って働こうとする限り、医師というのは、時に辛い仕事であると痛感します。人間のお医者さんで心を病んだり、ドロップアウトしてしまう先生が時折いるというのも、よく納得できます。

僕たちが向き合う命の向こうには、その命に込められた“思い”があります。だからこそ、その思いに対して、誠意を持って向き合っていかなければならないのだと思います。

医療関係の仕事というのは、うれしいこと、辛いこと、いろいろです。
より良く向き合い、乗り越えていけるよう、日々精進あるのみです。

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