獣医師評論【コラム】
にほんまつ動物病院
二本松 昭宏先生
目指しているのは、「治して欲しいという気持ちに、治してあげたいという気持ちで応える獣医師」です。患者さんとの良い信頼関係を築くためには、しっかりした説明をしたうえで、飼い主さんがよく理解し、飼い主さんがご自分にとっての最良の選択をできるようお手伝いすることが大切だと思います。疑問に思ったことは率直に尋ね、よく理解・納得したうえで、治療をしてあげて下さい。
飼い始める前の家族会議
ペットのいる生活はとても楽しいものです。一緒に楽しんだり、遊んだり、心を分かち合える動物が横にいてくれるというのは、何よりも人の心に潤いを与えてくれるものです。
人は、幸せな気持ちを感じるために動物を飼います。世話をして、面倒を見ることは大変ではありますが、ペットを飼うことで得られる最大のものは、精神的な充足感です。
愛すべきコンパニオン・アニマルのいる家庭は幸せの象徴でもあり、ひとつのあこがれでもあります。動物を飼うことは、それがきちんとされるなら、多くの喜びをもたらしてくれる、すばらしいことです。人の生活にめりはりと潤いを与え、子供の心の成長にもいい影響を与えることが期待されます。
でも、その一方で、飼いたいから飼うと、それだけではいけません。社会の中で飼う以上、周りの人間にも迷惑をかけないようにしなければいけませんし、飼われる動物が不幸せにならないよう、最低限の飼育はしてあげなければいけません。
飼育を始める前に一度、家族のみんなで、動物を飼う上での問題点や、実際問題飼えるのかどうかということを、よく話し合ってみて欲しいと思います。
話し合うべき点は、主に以下の3つです。
1.家の環境
動物を飼育するためには、ある程度のスペースが必要です。動物によって、必要とするスペースや住居環境は異なります。動物が必要とする環境条件を自分が満たしていない場合は、自分の条件で飼うことのできる動物にしておかなければいけません。分が必要な環境条件を持っていないのに、動物をそれに無理に合わせようとしてはいけません。
4畳半の一間で暮らしている人にグレートピレネーズは飼えません。
そして、周りの人に迷惑をかけないようにするためには、自分の家の周辺のことも考えなければなりません。自分の周りに迷惑がかかりそうな場合は、迷惑がかかるような動物を飼うべきではありません。密集住宅地で暮らしている人が猫を50匹放し飼いにしていたら、周りの人にとっては迷惑です。
2.家の人の生活パターンや性格
動物を飼う以上は、動物に時間や労力を割かなくてはなりません。手間もヒマもかけられないという人は、手間暇がかかるような動物を飼うべきではありません。
グレートデーンなど運動が必要な動物は、飼い主さんが毎日しっかり運動させ、散歩に連れて行く必要があります。根気がなくても毎日の世話をすることはできません。
面倒を見ることができないのならば、そのような動物を飼うべきではありません。
3.お金
動物を飼うためには、どうしてもお金がかかります。
毎日のゴハン代、ペットシーツやシャンプー代、ワクチン代や病気になったときの医療費など、飼い始めたときよりも、むしろそのあとで、たくさんのお金が必要になります。
1頭の犬を飼うのに、一生涯にかかるお金は約100〜300万円と言われています。動物に対してきちんとした飼い方をしようとするのなら、どうしてもそれなりのお金がかかります。そのお金を払うのは、飼い主さん以外にはありません。
自分の収入で、飼育にかかるお金を負担することができるかどうかということを、実際に飼い始める前に一度考えておかなければいけません。
お金の話をすると、「お金のない人は動物を飼うなと言うのか」と感じられるかもしれません。でも、そうではありません。問題は、「責任のある行動を取れるかどうか」ということです。
動物を飼うにはお金がかかります。また、責任ある行動を取ろうとすると、それにはどうしてもお金がかかります。
動物に何かあっても面倒は見ないというのは、責任ある行動とは言えません。お金をかけられないのであれば、
・最初から動物を飼わない
・お金のかからない動物にしておく
・生活を削ってでも、お金を動物に振り分ける
という選択肢の中から、どれかを選ぶしかありません。
まとめ
動物を飼うことは、市民としての当然の権利だと思っている人もいるかも知れません。でも、その考えは間違っていると思います。
人間に特別に与えられた、「動物を飼う権利」などはありません。動物を飼うということは、その人の意志にもとづく「行動の選択」でしかありません。
自分の意志で行動を選択するということは、その行動の責任はその選択をした本人にあるということです。何に対しての責任かと言えば、それは社会に対しての責任であり、飼われる動物に対しての責任です。
飼いたいけれども責任は取れない、ではいけません。
責任を取れないのであれば、最初から飼ってはいけないのです。
他人に迷惑をかける飼い方をするのなら、動物を飼ってはいけません。
また、飼われる動物を幸せにしてあげられないのなら、動物を飼ってはいけません。
自分の行動に責任を取れる人だけに、動物を飼って欲しいと願います。
そのためには、動物を飼うということを軽く考えるのではなく、どう飼っていくか、自分達に飼えるのかどうかということを、実際に飼い始める前に、家族のみんなでよく話し合って欲しいと願います。子供が飼いたいと言っているときには、その願いを叶えてあげることだけが親の仕事ではありません。動物を飼うということの大変さや、その意味、命を預かるということの重みを説明し、自分達に飼うことができるかを、子供と一緒に考えてあげ、判断することが大切であると思います。
考えた結果、その動物を飼うことができなさそうであれば、飼えないということを、その理由を含めて子供に説明するのが親の役目です。もしくは自分達に飼えそうな動物を考えてあげるべきです。
飼えそうもないのに、子供のご機嫌取りのためだけに飼い始めてしまい、周りに迷惑をかけたり、動物を不幸せにするということは、親のするべきことではないと思います。
きちんと飼って、愛情を注ぐなら、子供は命を大切にする心を育んでいきます。
でも、いい加減な飼い方をして、動物の命を粗末にするのなら、子供は「命は粗末に扱っても構わない」と感じるようになってしまうかも知れません。
そんな飼い方は情操教育としては逆効果であり、それならむしろ、最初から動物など飼わない方がよほど良かったということになります。
飼いたいから飼うというだけではいけません。
まず、飼えるかどうか、責任ある行動をとれるかどうかということを、実際に飼い始める前にみんなで話し合ってください。
そして、みんなで「責任を持って飼える」と結論が出てから、動物を家族に迎えてあげて下さい。
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