ペット医療最前線
Vol.1 皮膚科の権威 米倉動物病院
院長 米倉督雄
皮膚科 米倉動物病院 神奈川県藤沢市鵠沼松が岡 2-17-5
http://pet-skin.com/
※皮膚病で困っている方は、此のホームページを参考にご覧下さい。多数の皮膚病の写真が掲載されています。
小田急江ノ島線の鵠沼海岸から徒歩10分。閑静な住宅街の一画に米倉動物病院はあります。米倉動物病院は「皮膚科」を掲げ、それ以外の診療は行わないという数少ない専門医療の病院です。院長の米倉督雄先生にお話を聞きました。
自分の分野を納得いくまで極めたい
動物病院といえば多くが全科診療なわけですが、考えてみれば人間の医療で歯が痛いのに内科専門の病院に行く人なんていませんよね。本来、ひとりで何もかもすべてを診るというのは不可能だと思うんです。私も開業して15年ぐらいは総合診療をやっていたのですが、やはり何かを突き詰めてやろうと思うと全科をカバーするのは難しい。ならば自分の好きな道を究めようと考えたわけです。
──なかでも皮膚科に的を絞ったのは、症例数が多く身近に研究材料が豊富にあったからだとか。もちろん「医療そのものの奥深さが好き」という米倉先生だからこその結論だったということでしょう。以来、先生は35年にわたってこの道を究め、小動物の皮膚治療に関する専門書を何冊も著し、日本獣医皮膚科学会の設立にも尽力され学会の副会長を20数年間つとめられました(現在は退任)。
自分の分野だけは納得いくまで極めたいという、研究肌なんでしょうね。しっかりと確定診断をして、どのタイプの皮膚病にどう対処するかという戦略を立てて臨みたい。そうするにはあれもこれもやっていたのでは駄目だということです。本来は、そうした二次診療を行う専門医のドクターがいて、総合診療を行う一般のホームドクターは自分の手に負えない症例が来たら、そこに紹介するという流れが望ましいのではないでしょうか。
一頭一頭対処するしかない
──たしかに今は、よくわからないけどとりあえず抗生物質と症状を抑えるステロイドを出しておきましょうとか、何かというと検査をしてアレルギーがあるから処方食を食べさせてくださいという動物病院が多いように思われます。しかしステロイドは必要以上に使いすぎるとクッシングという医原病の原因となり、かえって皮膚を悪化させることもあるため使い方が難しい。とくに知識不足の飼い主の場合は、もっと効くクスリをくれる病院をと、ジプシーのように転院を繰り返すことが多く、こうした皮膚トラブルの悪循環に陥りやすいようです。
皮膚病にはじつに多くの種類があって、細菌やカビや寄生虫などの微生物によるもの、自己免疫性のもの、代謝系や神経系のもの、内分泌系のもののうちのどれなのか、あるいはどれとどれが複合したものかを見きわめる必要がある。 私のところでは、それを症状の経過観察と皮膚皮内試験などを行って突きとめ、もっとも適切な治療法を選択して行っていきます。中心的に使うのは、抗アレルギー剤や抗ヒスタミン剤、消炎剤、ホルモン剤、免疫抑制剤、強肝剤など10数種類以上の薬剤を、症例に応じて私が独自に組み合わせてつくる内服薬ですね。
──内服薬はすべてが、その子その子に合わせて処方した粉状の内服薬。自動処方プログラムを自らPCを使って開発し、その子に適応する処方を2秒で行える方法を完成させて日常臨床に使用されています。「錠剤を割って使うことはしません。犬はみんな体重が違うし、年齢や健康状態でも微妙にクスリの量が変わる。一頭一頭対処するしかない」とは米倉先生の弁。それが理想的なのはわかりますが、じっさい次から次へといろんな病気のペットたちが訪れる一般の動物病院で、そこまでの細やかな対応を望むのはなかなか難しそう。やはり専門医だからこそできる治療だと思います。
ハウスダスト・アトピーへの挑戦
ハウスダストアトピー
眼瞼周囲の典型的アトピーの炎症性脱毛・色素沈着
──皮膚を専門にやってこられた米倉先生が、「いま一番多い皮膚病は?」との問いに答えて言われたのはハウスダスト・アトピーでした。
ここに来る犬猫の約9割がハウスダスト・アトピーです。ハウスダストというのは、家庭内にあるホコリやチリなどの総称。簡単にいえば掃除機の中の黒い固まりがそうです。そこには絨毯や衣類、化粧品、建材の樹脂や塗料、さらに室内に繁殖するダニやノミなどの微生物や細菌など、生活環境全体から出るダスト(塵)が含まれている。当院では、その子の家の掃除機の中身を持参してもらって、そこからつくった抽出液を希釈し、それを少量ずつ注射して徐々に濃度を上げていくという減感作療法を行っています。これはいわば抗原に対して免疫をつくるアレルギーワクチンのようなもの。およそ70%の犬にはよい結果が出るんですが、遠方の方などは長期にわたって自分で注射をしなければならなくなるため、敬遠する人もいます
ハウスダストアトピー 生後1年以上経過してから皮膚病が発生した 痒がりが強く・匂いも悪い慢性外耳炎も悪化
──米倉先生は、この他にもオメガ3、オメガ6などの不飽和脂肪酸を使ったり、食事の改善をすすめたり、薬用シャンプーの使用をすすめたりして総合的な視点からハウスダスト・アトピーという難病に取り組んでいかれるそうです。ちなみに食事は、できるだけ人間の食事をつくる際にその子の分を考えて多めにつくり、それを食べさせればよいという考え。栄養バランスとかをあまり難しく考える必要はなく、「毎日違ったものを与えればよい」という方針です。あえて付け加えるなら、できれば調理済みのものではなく、肉などはできるだけ生のまま、穀物や野菜は消化しやすいよう小さく刻んであげればなおよいのではと思います。シャンプーについては、アトピーに対してはタール系のものを十分浸透させた上で使うよう指導されているとのことでした(細菌性アレルギーの場合はシャンプーが逆効果になるため外用薬の塗布を行う)
戦前の環境に戻してやる
──ハウスダストがもっとも多い皮膚病の要因だとすると、飼い主が自分の愛犬・愛猫を皮膚病から守るために何かできることはないのでしょうか? 「日本は高温多湿の国ですね。しかし純血種の洋犬はみんな乾燥した大陸性気候の土地や寒い土地で生まれた犬たちですから、日本の風土に合わないものが多い。それだけに、私たち人間がかれらを暑さや湿気からしっかり守り、順応しやすい環境を整えてやる必要があるということです。
私がよく言うのは、『戦前の環境に戻してやる』ということ。戦前は今のような高密度の家はなかったし、家の中に化学物質もなかった。使われている建材はほとんどが自然素材で、食べるものは人間の食事を分け与えていた。今はまさにその逆になってしまっている。だからかつてはなかった、犬猫のアレルギーやアトピーが広がってきたのです。
──寄生虫博士として知られる東京医科歯科大学名誉教授の藤田紘一郎先生は、「東南アジアなどの地域にアレルギーがないのは寄生虫が体内にいるからだ」という説を発表して注目されましたが、本来、寄生虫に対応するはずの血中の好酸球が自分の役目を見失った結果引き起こしたのがアレルギーであるというのは事実。だからといって寄生虫を今から飼うわけにはいきませんが、清潔さや利便性を追求するあまり化学物質や合成添加物などに頼りすぎたことが、犬や猫たちに皮膚病を蔓延させたというのは明らかでしょう。さらにいえば、アメリカから波及した避妊・去勢手術の恒常化も、犬猫のホルモンバランスを崩し皮膚病の原因をつくることにつながっているという指摘もあります。
米倉先生が指導されている皮膚病の予防の心得は以下の7点
- (1)室内をつねに清潔に保つこと
- (2)定期的なシャンプー、ブラッシング、薬浴、抗菌消毒
- (3)室温と湿度の管理をこまめに行う
- (4)食事の管理、同じものばかり長期間与えない
- (5)適度な運動、毎日の定期的な散歩
- (6)動物病院での定期的な検診
- (7)何よりも飼い主の愛情。ふだんから身体をさわり異常を早期に見つける ということです。
皮膚のスペシャリスト・米倉先生のアドバイスにしたがって、ペットも飼い主も同時に憂鬱な気分にしてしまう皮膚のトラブル予防に、きょうからでも真剣に取り組んでいきたいものです。
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