ペット医療最前線
Vol.6 「確定診断」のできる総合医療センターをめざす保田動物病院
副院長 保田大治
高度救命救急センター 保田動物病院神奈川県横浜市戸塚区戸塚町4181
tel:045-881-3533 fax:045-881-3925
平成2年に日本獣医畜産大学に入学、学生時代は放射線学教室に所属し、CT診断学と放射線治療学を選考。平成8年に卒業後、保田動物病院に就職し、5年間は全科一般診療を学び、副院長として現在に至る。平成14年、日本獣医畜産大学放射線学教室の研究生となり、翌年、平成15年には同大学放射線学実習講師となる。また同年、日本獣医画像診断学会、獣医麻酔外科学会の評議員に就任し、さらに平成17年には日本獣医画像診断学会の評議員から理事に就任し、現在に至る。
答えのない医療はしたくない
保田動物病院外観
──JR東海道線「戸塚」駅から約10分。大きなバス通りに面して5階建ての保田動物病院が見えてきます。洗練されたファサードは、一見、人間の総合病院のように見えなくもありません。しかし、近くに行って看板を確認すると「動物高度救急救命センター」の文字がしっかり記されていました。今回は、あえて「高度医療の担い手」であることを、きちんと打ち出すことを選んだという保田大治副院長にお話をお聞きしたいと思います。
ここは新築して5年目ですが、父の代を入れると42年目になります。『高度救急救命センター』を看板に入れたのはあくまでも私の意思で、その頃からCT(コンピューター断層画像装置)を導入して一般の動物病院にはできない、ひとつ上をゆく診断技術を持とうとの考えがあったからです。
──CTはもちろん大学病院に行けばありますが、紹介すればいつでも撮ってもらえるというわけではない。急いで診断を下さなければならない椎間板ヘルニアなどの脊髄疾患や交通事故後の出血にともなう中枢神経疾患の患者がいるのに、予約を入れて2週間待ち3週間待ちでは間に合わない。そんな動物医療の現状を、ずっと歯がゆく思い続けてきた保田先生は、2001年を機にCTを導入して、いつでも素早く確定診断をつけられる病院にしていこうと思われたそうです。
これまでの町の動物病院では、ハッキリわからないけれども、たぶんこれだろうという『だろう診断』が多く行われてきたと思うのですが、私はそんな答えのない医療はしたくない。私はしっかり病名とその進行度を突き止めて、それに高度な知識と技術で対応していくような動物病院にしたかったんです。本来ならそれは大学病院が担うべき役割だと思いますが、そうでないなら民間の私たちがやるしかない
治療のタイミングを失わない診断スピード
保田動物病院待合室
──しかしながら、保田先生の主張はもっともだと思うのですが、こうした突出したやり方をすれば、なにかと地域の動物病院からの風圧があるというのも事実。最初のうちは、やはり「高度救急救命センター」という看板に、少なからぬ抵抗を感じられた先生もおられたようです。
それも5年もやってるうちに、いつしか認知されてきましたね。今ではけっこう遠方から、紹介で患者さんが送られてくるようになりました。もちろんそういう場合は二次診療ですから、きちんと確定診断をして、その時点でうちで治療を行うか、元の病院にお戻ししてホームドクターの先生に診ていただくか決めてもらうことにしています
──肝心のCTで診断技術がどうアップしたかですが、これについては水頭症や椎間板ヘルニア、体内にできたあらゆるタイプの腫瘍、神経病や循環器の病気、血管の病気、さらに膝や股関節、骨の状態などの情報が、従来のレントゲンに比べてはるかに精度の高い画像として得られるようになったとか。しかもそれが治療のタイミングを失わないうちに得られるとしたら、なによりそれを望んでいたのは飼い主たちなわけですから、こんなに強いバックアップはないはず。ニーズを満たすものが、支持されないはずはありませんから。
5年から10年かかる画像診断技術の習得
CT(コンピューター断層画像装置)
ただし、CTさえ入れれば何でもわかると思うのは早計です。画像診断には、やはり高度な知識と技術が必要なんですね。機械が全部やってくれると思ったら大きな間違いで、最初にこの子はこういう症状があっておそらくはこの病気が疑われるから、どことどこをどんな角度と深度で撮るかという見立てをしなければならない。もちろん造影剤の量や使い方にも豊富な経験が要る。それがとても重要なんです。だからCTを撮る時には、必ず私が診察を引き受けることになる。本当ならそういうスキルを持った人材が複数いるのが望ましいわけですが、今は急いでその人材を育成しているという段階なんです
──保田先生自身は、大学に在学中から画像診断に強い関心を持ち、卒業後も大学の放射線科に籍を置くなどして継続的に勉強を続けてこられた。その15年の実績があってこそ、いま自信を持ってCTを使いこなせるのだとか。画像診断のプロフェッショナルの育成には「今から始めても10年かかる」とのことでした。 しかしながら、保田動物病院に二次診療を託してくる病院や飼い主たちからのニーズの高まりを考えると、「先を急がねばならない」と先生は考えておられるそうです。その次なるステップはMRI(磁気共鳴画像装置)の導入。それによってCTだけでは読み切れない分野の正確な情報が得られることになると先生は言います。
画像診断のポイントは、コントラスト分解能と空間分解能、そして時間分解能という3つのレベルで表現します。コントラスト分解能というのは絵の善し悪し、空間分解能はどれだけ広範にわたって多くの情報を集められるか、あと時間分解能というのは決まった大きさの中でどれだけ早く情報を得られるかなんですけど、このうちCTが得意なのが時間と空間、コントラストを得意とするのがMRIなんですね。ようするにMRIがあれば、より鮮明で精密な画像で患部の形状が読み取れる。たとえば脳炎の起こっている部位や症状、CTでは写らない脳腫瘍、脊髄腫瘍や脊髄炎などが手に取るようにわかるわけです。私は今、日本獣医畜産大学でMRIの画像診断の研究を続けていますが、CTでは写らない肝臓の腫瘍がMRIだとしっかり写る。私がほんとに目指している理想の確定診断を実現するためには、やはりこれが必要だなと
──もちろん、そうした高度診断装置を駆使してわかった腫瘍等への対応として高度な医療機器も必要で、MRIと併せて放射線治療器などの導入も視野に入れておられるとか。そこまで備わると、もはやこれは大学病院をもしのぐ医療センターといえなくもありません。
ニーズに応えるセンター病院構想
保田動物病院スタッフ
──そうしたセンター病院としての役割についても、保田先生の頭の中では着々とプランが組み上げられているようです。
ここを二次診療を中心に行うセンター病院的な施設にする計画は視野にあります。今の動物医療に対するニーズは今後も高まる一方でしょう。そうしたときに、一人の獣医師がすべての科目を診るという全科診療(ジェネラル)で応えていくのは絶対に無理。私は3年前からそれを痛感して、断腸の思いで“自分にできること”を絞り込み、できないことは人にまかせていくという決断をしました。
──保田動物病院では今のところ、腫瘍科と内科を専門に診れる先生を招聘して、先生自身は画像診断と外科に専念し、それ以外の一般的な疾患やケガなどの治療は若い代診の先生たちが担当するというシステムを取っていますが、近い将来、内科、腫瘍科、眼科、外科、放射線科をそれぞれの専門医が担当するセンター病院にしていきたいと思っておられるそうです。
将来的には、この5つの科のもとに助手が3人ずつ付いて、計20人ぐらいのチームが組めれば理想的ですよね。これから15年先ぐらいをひとつの目標と決め、その実現に向けて一歩一歩駒を進めていきたいと考えています。
──保田先生の言葉は淀みがなく、理想の高さがしっかり伝わってきます。大きな資本を使って最先端の機械や装置を導入した大学病院が、本当に必要とされるスピードに対応していない現状を考えると、民間でできるなら本物の「高度医療のできるセンター病院」をつくろうという先生の夢は、飼い主にとって大きな光明であり、支持できるものだと思いますね。
また先生は、こんな話をされていました。
これからは、一人ひとりの獣医師が3~5年の全科診療の修業をしたあと、自分のスペシャリティを磨いて専門分野を持つ時代が来るんじゃないでしょうか。そして、そうした若い先生たちのスペシャリティーを一般の動物病院がうまく活用して、整形外科の先生は月曜と水曜に来る、腫瘍科の先生は火曜と木曜、内科は金曜、眼科は土曜という形で地域のニーズに幅広く対応していく。あるいはそれぞれの病院がひとつずつ専門分野を持ち、地域単位で全科をフォローしていくという形が望ましいように思います。そうすれば、地域全体の獣医療レベルはグンとアップしていくでしょう。
──理想が理想で終わらないようにするためには、実行しかないという保田先生の今後に期待していきたいと思います。
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