獣医師評論【コラム】
北森ペット病院
北森 隆士先生
収入の5〜10%を、動物を大切にするための啓蒙活動、獣医学の進歩のための研究、最新医療機器の購入、野生動物保護活動にそれぞれ割り当てるような経営を目標にしています。研究は、数年ごとにテーマを決めて行っていますが、現在は、イヌの混合ワクチンの有効性(効果)についてデータを集めています。
うその健康情報の氾濫
TVや新聞で、毎日のように流される、うその健康情報。なかでもひどいのが、単一の食品やサプリメントで病気を治す、予防するってやつ。私は医者ではないので、ヒトが自身で勝手に、ひとつの食品を食べ続けたり、サプリを飲み続けるぶんには、なにも文句はありませんが、これが最近ペット業界にまでハビコッテきやがるものだから、どうも捨ておけません(動物は、口がきけないので、もしものときは手遅れになりますから・・)。
実際、診察室でも、●●に良いかと思って、サプリを飲ませていますと言う方もチラホラ現れて、そして、その値段を聞いてびっくり…、お薬よりも高いじゃないですか! また、なかにはドックフードに、ある食品をわざわざ足して与えている方もいます。
サプリ、健康食品の大好きな方に、エッと思われる例を、2つばかりあげてみます。
サプリ……例えば、最近、心臓に良いって抗酸化作用をうたったサプリが流行っていますよね。動物用サプリでも色々販売されています。当院患者さんで、イヌの心不全の子にどうですか? と聞いてきた方がいました。しかし、実は、世界で最も権威の有る医学系学会のひとつである米国心臓病協会(AHA)が、2006年版のAHA Scientific Statement として発表した、食事とライフスタイルに対する勧告の中で、はっきりと抗酸化サプリメントは摂るべきでないと言っているのをご存知ですか? 無論ヒトの学会ですが、ヒトに悪くって、ペットに良いっていうことはないでしょうから。
食品……例えば、数年前、赤ワインブームがありました。赤ワインのポリフェノールが心臓に良いといっていたあのブームです。赤ワインを多量に飲む国では、ある種の心臓病(心筋梗塞)が少く、それは赤ワインに含まれる酸化物質ポリフェノールが効いているという研究で、確かにこの研究は科学的にしっかりしたものでした。それで、そのこと自体の結論は正しいですが、実はアルコールに関しては他にも色々有名な報告があるのです。アルコールを接種することによって乳がんやその他のガン・肝硬変の発生率、あるいは若者の自殺率が上昇する、という立派な研究です。皆さん知っていますか? つまり、『ガンや肝硬変や自殺率が上がることを覚悟してまでも、多少心筋梗塞が減るのを期待して、赤ワインを飲みますか?』というのが赤ワインの健康に関する本来の結論なのです。現に、ブームの火付け元、フランスでは乳癌の死亡率は日本の3倍ですからね! 別に、赤ワイン、アルコールを飲むなと言うのではなく、売り手は、商品を売るためには、時として嘘をつく…そしてそれが健康に関するものであれば、単なる嘘では済まされないときがあるということが言いたいのです。もっとも、イヌにワイン飲ませる方はいないと思うので、これはあくまで例ですが…。
健康に必須なものは、バランスのとれた食事、適切な体重、適度な運動です。このうち食事に関しては、究極のバランス食であるドッグ・キャットフードがありますから、その他色々、諸々、病気予防のために加える必要は通常ありません(例外もありますがその時は獣医師がちゃんと処方します)。そして、もし何か病気になったら、サプリなんかよりも、何十年にもわたって科学者が一生懸命研究したお薬で治療しましょう。お薬で治せないものが、どうして食品やサプリで治せたりするのか、少し冷静になれば分かるはずでしょ? そして、適度な運動もさせず、ペットを太らせて、それでいてサプリ? ……いい加減にしましょうね!
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