獣医師評論【コラム】
北森ペット病院
北森 隆士先生
収入の5〜10%を、動物を大切にするための啓蒙活動、獣医学の進歩のための研究、最新医療機器の購入、野生動物保護活動にそれぞれ割り当てるような経営を目標にしています。研究は、数年ごとにテーマを決めて行っていますが、現在は、イヌの混合ワクチンの有効性(効果)についてデータを集めています。
EBMの重要性
皆さんは、EBMと言う言葉をご存知でしょうか?
EBMは、インフォームドコンセントと同じくらい、こちらの業界では流行り言葉になっているのですが…・・。
EBMは、エビデンズ・ベイスド・メディスン(Evidence-Based Medicine)の略で、エビデンス(根拠)に基づく医療と訳されます。ヒトの医療では十数年前から、獣医医療ではここ数年、このEBMの重要性が説かれ、EBMを実践する必要性が叫ばれています。
このように書くと、今まで、(獣)医師は、根拠が無い(エビデンスの無い)治療をしていたのか…・と思われるかもしれません。
ま、ある意味、そうなのです。
これまでの(獣)医療は、伝統的な治療法や、(獣)医師個人の経験に基づく治療法がベースになっていました。例えば、『●●癌の治療には、手術が良いのか、制癌剤が良いのか』、『アトピー性皮膚炎の治療には、A薬とB薬、どちらを選択すべきか』、(獣)医師個人の判断で決められていました。しかし、画期的な新薬の開発、検査法や手術技術の進歩など、(獣)医療は日進月歩です。個人の判断が、たとえそれが長い経験に裏打ちされていようとも、常に最良である根拠はどこにあるのでしょうか?もしかしたら、(獣)医師の判断は、コイントスのようなものかもしれません。ヒトの医療では、実際に、長年続けられてきた治療法が、EBMの考え方をもとに調査した結果、効果が無い事がわかり、ある日突然否定されたことも過去にはあったのです。(http://www.med.or.jp/nichinews/n100605b.html)。
これに対してEBMの概念は、現時点での最良の(獣)医療を提供するために、個人の経験ではなく、世界規模の臨床研究に基づく客観的なデータに基づいて、(獣)医師は治療を選択し進めていきましょうということなのです。誤解を恐れず言えば、(獣)医師個人が病気を治すというよりは、(獣)医学が病気を治すことの徹底化とでも言うべきか・・・・・・。もちろん、高度な外科治療や、救急医療、特殊な疾患などは、担当(獣)医師の腕によるところが大きいのでしょうが、それ以外では、病院間で治療方法や、治療成績が大きく違ってはいけない。そういう意味で、このEBMが提唱されているのです。
EBMを基本にすると、例えば、ミニチュアダックスの椎間板ヘルニアの治療の場合、
『この子の重症度であれば、お薬だと●%、手術だと●%の改善率が期待できるとの報告がありますが、あなたはどちらを選択されますか?』という会話が、診察室で行われます。逆に言えば、ある疾患で、(獣)医師がEBMを語れないと言うのは、彼の知的怠慢か、今だ(獣)医学が当該疾患の治療法を明確にはつかめていない、と言う事にもなります。
もちろん疾患名が特定されなければEBMも何もありませんし、一般的な症状でことさらEBMを語る必要性はありません。しかし、癌などの命に関わる疾患、アトピー性皮膚炎や腎臓病などの慢性疾患、椎間板ヘルニアなどのQOLに関わるような疾患時の治療には、EBMの概念は非常に重要になるのではないでしょうか。インフォームドコンセントの必要性については語るまでもありませんが、そのベースに、このEBMがないと、時としてそれは、(獣)医師の独りよがりの治療にもなりかねません。それほど、EBMは重要なのです。
さて、(獣)医師は、そのエビデンスの情報・データを、どのようにして入手するのでしょうか?
一般的には、学会、研究会、専門誌、インターネットによる論文検索です。つまり、学会にも参加せず、インターネットも使いこなせないような(獣)医師は、医療技術を問う以前に、医療情報的に既に劣っている可能性もあるということです。また、EBMの考え方でいえば、『この病気は、私にしか治せない』という(獣)医師も、2つの意味ではなはだ危険な存在です。そのような(獣)医師は、自身でみつけたEBMを公表して皆のものにしていない知的怠慢な輩か、EBMをまったく知らない無知な輩かのどちらかに決まっているからです。
現在の治療やこれから行われる治療に不安がある場合、インフォームを受けるときなどに何を質問してよいか分からない場合、『先生、その治療法のエビデンスは?』と聞いてみるのもよいですよ。
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