獣医師評論【コラム】
イトウペットクリニック
伊東 彰仁先生
ライフワークとして、人獣共通感染症の研究に取り組んでいます。
狂犬病の調査研究のため、タイ、ロシア、フィリピン等にも行っています。
一般向けに著書(ホームページに紹介)も出しています。
著書
「危ない!ペットとあなたを感染症が襲う」
〜これが人獣共通感染症だ〜
ワニマガジン社より(950円税別)
ペットと上手に付き合うには?
ペットは私たちに、多くのものを与えてくれます。それは、心のよりどころであったり、場合によっては生きる望みも与えてくれることもあります。
しかし与えてくれるのは、それだけでしょうか?実は節度を持った接し方をしないと、あまりありがたくないものも与えてくれる場合もあります。そうです、動物からうつる病気です。
いえいえ、うちの仔は外に出ないから病気なんて持ってないわよ・・・・・という方もいらっしゃいます。本当にそうでしょうか?
本来彼らには、害を出さず共存している病原体でも、あるとき人の中で増殖すると、とんでもない病気を引き起こすことがあります。
病気の説明は、相談コーナーで質問していただけることと思いますので、コラムではその接し方について少し書いてみます。
近年室内飼育の動物が増えています。それに伴い、1)〜4)は室外飼育の動物に比べ、その機会が増大してきました。もちろん室外飼育の動物にも当てはまるのですが、接する時間も長くなり、自由に家の中を移動できるようになったことで、その感染機会が増えたことは言うまでもありません。
1) ペットとの過剰な接触を避ける。
・顔を自由に舐めさせる。
・ペットとキスをする。
・口うつし、あるいは自分の箸や食器で食べ物を与える。
・一緒に寝る。
このような行動は、すべての感染経路を開放してしまいます。もしそのペットが、病原体を持っていたならば、何の障壁もなくヒトに感染するでしょうね。
2) ペットを触ったら、手洗い、うがいを習慣付ける。
特に室内で同居しているペットオーナーは、この習慣がなく、あげくに「うちの○○ちゃんは、清潔だから。」などと本当に思っているから怖い。ネコのほぼ100%、イヌの75%にパスツレラは常在しているのですよ。彼らは、それが当たり前なのです。
3) こまめに、トイレの始末をするなど、ペットの飼育環境を清潔に保つ。
・ネコの爪の中には、ヒトにうつる病気が、よく入り込んできます。動物病院で、抜爪手術をするか、頻繁に爪切りをして、ヒトに刺さらないようにしておくことです。
・トイレは、毎日最低1回は交換し、いつも清潔に保っておくこと。これは、ペットの衛生にも良いことですし、便に出た病原体の中には、時間が経たないと感染力を持たないものもあります。
・ノミなどの外部寄生虫は、動物病院で相談して、計画的な駆除と予防をしてください。
・鳥かごの掃除は、マスクを着用し、さらに、できるだけ塵埃(糞の乾いた粉や羽毛など)が舞わないように努めましょう。鳥かごから出る塵埃は、粒子が細かく、舞い上がるとなかなか落下しないうえ、容易に呼吸によって取りまれることになります。
・げっ歯類の敷きわらは、1〜2日に1度は全部交換しましょう。敷きわらから、病原体が入ることがありますから、製品自体にも注意が必要です。
4) 寝室、食卓にはペットを置かない。
イヌやネコに限らず、ケージに入ったトリやげっ歯類に関しても、同じことがいえます。動物の体表や、飼育環境から舞い上がった塵埃は、食事のうえに降り注いだり、睡眠時の呼吸からも体内に侵入してきます。
5) 予防できるものは、必ず予防しておく。
現在予防注射があるものは、イヌ・ネコの狂犬病とイヌのレプトスピラ症だけです。駆除薬を予防的に使うとしても、エキノコックス・回虫症・ノミ症だけです。
できるものは、必ずやっておくことが、自分や家族、ペットに対する愛情です。
6) 性格的に、温厚なペットを選ぶ。(オーナーの飼育条件に適したペットを選ぶ)
・自分でコントロールできないペットは飼うべきではありません。傷つけられたりすることで、感染する病気もありますし、治療にも困難を極めるかもしれません。
・飼うスペースや、周囲の環境、経済的条件、世話の難易度によって飼う動物や種類を決めましょう。見た目のかわいらしさや、思い込みで飼うのは病気の発生にもつながりますし、動物も可愛そうです。
7) 野生動物は、飼わない、触らない。
野生動物や野良猫などは、非常に高い確率でズーノーシスを保有しています。動物が好きなのは分かりますが、どうか節度を持った接し方をしてください。アメリカや、カナダ、中南米で発生している、コウモリから感染している狂犬病などは、食虫コウモリの咬傷からでもうつります。かまれ傷は、ハムスター程度だそうです。
8) ペットオーナーになるのなら、飼い方だけではなく、正しい病気についての知識を持つこと。
正しい病気の知識を持つことは、動物を排除することではありません。私は、イヌ8匹とネコ3匹のオーナーです。それ以外に毎日病気の動物と接しています。それでも、ここにあげたようなことを守るだけで、私も、家族も、ズーノーシスに悩まされることは、今まではありませんでした。どうか、正しい知識を持って、ペットと楽しく暮らせることを祈ります。
著書 「危ない!ペットとあなたを感染症が襲う」 ワニマガジン社刊より一部抜粋
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