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ペット医療最前線

Vol.8 倫理委員会を設置し民間初の腎臓移植に挑む

院長 遠藤 薫

院長 遠藤 薫

遠藤犬猫病院 栃木県那須塩原市下永田1-22 tel:0287-36-5680

自治医大で人間の最先端医療を学ぶ

──先生は外科の設立専門医ということですが、やはりお得意の分野は外科ですか?

僕は大学の頃から外科の研究生だったのでね。外科が大好きで、その中でもとくに整形外科の症例を多くやってきました。  開業当時、このあたりはまだ交通事故がすごく多くて、骨折の急患がかなりあったわけですが、それを治すのに非常に苦労しましたよ。それで開業して10年ぐらいのときに、近くの自治医科大学に頼み込んで整形外科の教室に医局員として入れてもらったのですね。じつは僕は卒業してから千葉県農業共済組合連合会で研修して、帰ってきてからは3年間牛の診療をやっていて、その後家内のお父さんの開いていた病院で犬猫を診はじめたわけですけど、やはりどうしても納得できないところがあって、もう一度、きちんと医学部に行って勉強をし直そうと。だけど、コネも何もなかったから直接、教授の大井淑雄元先生に電話をしてお願いしたら「教授に直接電話してくるなんて、おもしろいやつだ。じゃ今からすぐ来れるか」ということで、面接を受けさせてもらえてその場で採用。そこで3年ぐらい、脊髄損傷の手術などを勉強しました。自治医大の整形って、もともと脊髄が専門なのですよ。

──脊髄だけを専門的に診られているのですか?

脊髄から骨折からいろいろですよ。股関節形成不全とかもやっていましたし…。脊髄の手術は腫瘍だとか、後縦靱帯骨化症とか、脊髄の中にある脂肪が骨みたいに硬くなって、脊髄を圧迫して麻痺が出ちゃう黄色靱帯骨化症などの病気の手術とかが多かったですね。  見学とかは、手術室が12もあって、どこでやっている手術も見学OKだったから自由に出入りさせてもらって、いろいろなことを学ばせていただきました。自治医大は、当時は勉強したいという人に対してすごくウェルカムな姿勢をとっていて、その意味では本当にラッキーだったと思います。

──動物病院をやりながら研究生になられたということですか?

そう、週一ぐらいのペースですけどね。そこで、僕は脊髄損傷の動物もけっこう診ていたので「脊髄の再生をやりたい」って言ったのですよ。そしたら専門のお医者さんたちから「そんなのできるわけない」と笑われて…それでもあきらめずにずっと実験とかを続けていたら、今になってES細胞を使って脊髄治そうという動きが出てきましたよね。 当時、ほとんどの先生が「脊髄の再生なんてできるわけがない」と言う中で、きっと将来的には脊髄は再生できるし、遠藤先生の意見もよくわかると言ってくれる先生もいた。当時医局長をされていた在宅医療で有名な太田秀樹先生ですけど、その先生のおかげで論文も発表できたし自由に研究もさせてもらえたので、居心地がよくてそこに10年ぐらいいました。その後、医局の先生方が辞められるということがあって、僕も一度は辞めたのですが、たまたまうちに来ないかと誘ってくださる先生がいて、今度は臨床薬理学研究室に移りました。

人間の医療とのコラボレーションが開く可能性

岩井先生

腎臓移植のトレーニングをされている岩井先生です。

──また、全然違った分野の研究室に行かれたのですね。

臨床薬理学研究室の先生は、当時助教授だった小林英司先生という方ですけど、この先生はじつは外科医なんですよ。外科医ですけど、薬理学にも非常に興味を持っておられて、あとからわかったことですが、移植外科医というのは臨床薬理に精通していないとできないのですね。つまり、小林先生は臓器移植のプロをめざされていたと。それからそこに2年間いて、小林先生が臓器置換研究室の教授になられてからは、一緒についていって4年間、猫の腎臓移植の研究をサポートしてもらいました。自治医大の中でも最先端医療をやっているところですね。今でもこことは密な繋がりがあって、うちの勤務医の一人である岩井聡美先生も、そこで何度も人の腎臓移植に立ち会わせてもらってます。 だから都合14年ぐらいいたのでしょうか。32歳から46歳ぐらいまでということですけど、一番馬力のあるときに集中的にいろいろなことを学べたというのは、ほんとうに願ってもいない機会でした。 ただ、教わることも多かったですけど、次第に教える回数も増えてきましたね。整形の医局にいたときは、人間のお医者さんって動物のことがわからないから、ウサギに気管挿管するのができないのですよ。喉を開けて口頭鏡を挿入するのですけど、ウサギって、固定さえきちんとしていれば何も見なくてもすっと入ってしまうのですよ。そういうのをやって見せたりすると、みんながわ~っと集まってきて、どうやるの?もう一度やって見せてって、すごい反響なのです。僕らはそれが専門だから、何ということもないわけですが、人間の先生にはマジックのように見えたのですね。

──ある意味、獣医師と人間のお医者さんがコラボレーションすることはとても良いことかもしれませんね。

そう思います。お互いが足らないところを補い合ったり、知らないことを教えあったり…動物で有効だったら人間の医療にも使えるようになることがたくさんあるわけだし、逆に人間の医療で使われている先進技術が動物の高度医療にも使えるようになる例もいっぱい見て来ましたからね。あと、自治医大のおおらかな校風というのもあったのでしょうが、獣医師の知識や経験をとても欲しがっていて、他の先生たちと分け隔てなく対等に接してもらえたこともよかった。そのかわり、自分から何もしないでいると放ったらかしで、自分でどんどん見つけていって、あれをしたい、これをやらせてほしいと言わないと、いつの間にか存在を忘れられてしまう。そんな気風もある。だから僕は、大学にいたときに仲間の獣医さんたちに自治医大においでよと声をかけたけど、みんなあまり反応がなかった。大学の研究生になるってこと=学位論文を取るって、みんな勘違いしているんだよね。たしかにそういう目的を持って来てもいいけど、僕らは臨床医なのだから学位なんていらないのよ、別に。それ以上に人間の最先端医療の現場が見れる。実際の最新手術がどのように行われているのかとか、第一線の先生はこの手術をどうやっているのだろうとか、自分の目で見たことを、病院に持ち帰って動物の医療に活かしていく。そんな機会を、若いうちはどんどん作った方がいいと思います。

臓器移植のために倫理委員会を立ち上げる

フォーラム

2003.07 : 猫腎移植フォーラム

──猫の腎臓移植の話が出ましたが、先生の病院ではこれを実際に行われているそうですね?

まだ実験の段階で、臨床はこれからですね。実験用の猫を使って基礎データを全部取ったりして、技術的にはもう可能な段階なんですけど、これには倫理的な問題がありますので、まずはうちで倫理委員会をつくって万全を期して臨みたいと。もちろん実験もすべて、この委員会を通さないとできないことになっています。倫理委員会は、自治医大の小林先生にお目付役(顧問)をお願いして、弁護士さん、地元の教育者の方、市議会議員の方、メディアの人、それからうちの獣医師2人と看護婦2人で構成されるものです。院外委員と院内委員が協議して、これは手術の適応だからやってよい、あるいはやってはいけないとかを決める。もちろん、症例の状態から手術の手順まで全部説明してね。本当はこうした委員会を置くのは大学病院とかのレベルで、開業医がしている例は世界でもあまりないと思うのですよ。だけど、うちではそのあたりから脇を固めてやっていこうと。

──臓器移植というと、やはり何か問題が発生しやすいということでしょうか?

じつは自治医大の小林先生は、人間の方の倫理委員会の役員をやっておられて、腎移植をするにあたってもまず倫理から先にやりなさいと強く言われたのですね。だから動物の臓器移植について、みなさんどうお考えですかという市民公開フォーラムまで大田原市でやったのですよ。なかなかおもしろかったですよ。臓器移植なんて動物にやる必要はないよって思っていた人たちが、カリフォルニア大のドクター・グレゴリーや麻布大の武藤眞先生や三重の南毅生先生たちの話を聞くうち、だったらいいのではないかという意見が大半になった。最後まで反対っていう人は一人ぐらいしかいなかったですね。  反対の人は、動物には意思疎通ができないのに、意思を確認できない動物になぜ移植医療をするのだって話をされていたけど、それを言ったら普通の動物医療も一緒ですよね。だって彼らが医療を望んでいるかどうかはわからないじゃない。だから倫理は語り始めると結論が出なくなっちゃうんですけど、ただ反対する人の意見もちゃんと聞いておかないといけないし、倫理問題をきちんとディスカッションしてこの医療は行っていますということを世の中に伝えておかないと、自由にやっていいというものではないということですね。

──しかし個人病院で腎臓移植なんて、すごい話ですね。

先に名前の出た岩井先生は、それを専門にしていますからね。彼女は、僕が自治医大にいるときに、研究生として一緒に通っていたわけですが、1.5ミリの血管に8針ぐらい入れるという細かな作業なので、誰でもかれでもできるという技ではないのですよ。最初はマウスとかラットを使ってマイクロサイジャリーのトレーニングを積んで、何年もかかって習得する技術ですから。なので彼女には、短期だけど、カリフォルニア大学の腎移植の第一人者といわれるドクター・グレゴリーのところにも留学して勉強してもらいました。ドクター・グレゴリーは個人的にもお付き合いをさせていただいていて、うちの病院にも何度か来てもらっています。

──猫の腎臓移植では、麻布大の渡辺俊文先生が有名ですね。

渡辺先生にも、2回ぐらい来てもらって一緒に仕事をさせていただきました。麻布大も最近はほとんどやっていないらしいので…。その意味では、僕の病院ではもういつでもできる態勢ではあるのですけどね。 しかしながら、腎移植を希望される患者さんもいくつか来られるのですけど、適応外だったり、もうやる状況ではなかったりして、なかなか第一歩を踏み出せないでいるのですよ。うちの病院では手術適応のきびしい基準をつくっていて、それに適合しないとむやみに手術はできないものですから。

──基準というのは、具体的にどのようなものなのですか?

たとえば、ほんとうに慢性腎不全の末期で、アンモニアの数値も高くて、クレアチニンもBUNもオーバーしてしまっているような子はまず無理ですね。ある程度、手術に耐えうる予備力のある子 でないと、せっかくドナーになってくれる子に悪いですから。  誤解している人がけっこういるのですけど、腎移植はけっして末期医療ではないのですよ。散々治療して最後どうにもならなくなってしまったので移植してくれ、ではない。ある程度コンディションのよいときに移植医療という道があるということなのですね。  どういうことかというと、移植医療は術後に免疫抑制剤を使わなければならないものですから。そうすると当然、感染症に対してものすごく抵抗力が下がってしまう。だからそれに耐えうるような余力のある子でないと、当然よい結果が得られないわけです。だからクレアチンは7を基準値にしています。それがアメリカのデービスの基準値ですから。あと、10歳以上の子はやらない方がいい。

民間初の猫の腎臓移植に挑む

先生

──先生の病院では、HPで猫の腎移植のことを書かれていますから、反響はあるでしょう?

あるにはあるのだけど、獣医師ではなくて飼い主さんからの問い合わせですね。今の猫は腎不全が多いですから、飼い主さんの方が熱心に調べられて来ます。獣医界の方は、海外の雑誌だとか海外の学会などでの発表はあるのですけど、国内ではまだ発表が少なくてあまり目についていないようです。すこしアピール不足ということかな?  また、獣医師側のネットワークもないため、情報交換もできていないのが現状で、これはこれからの課題ですね。

──腎不全になると、最後は手の尽くしようがなくなりますよね。

点滴をするとか対処療法だけですよね。血液透析はありますけど、やり始めたら一生続けなければならない。人間と一緒ですよ。だから残された最後の道ということなのですけど、問題はやはりドナーが必要だということです。きちんとドナー用に育てられた動物で、術後はその飼い主の方が飼うことになる。あるいは飼い主さんが飼っている同居動物を使うか、その二つ以外はやらないのが決まりです。

──犬の腎移植はどうなのですか?

犬でももちろんできます。デービスではどちらかといえば猫より犬が主流になってきています。これは投薬が楽だからですね。猫はなかなか大変。免疫抑制剤がおいしくないから。犬はこれまで免疫抑制剤の使い方が難しいといわれていたのですけど、個体差があってそうでもない子もいることがわかってきた。今はサイクロスポリンしても、タクロリムスにしても使い方がいろいろ研究されてきて、動物でも使えるようになってきた。さらに犬は猫よりサイズが大きいですから、手術自体はやりやすいと思います。

──飼い主が気になるのは、いくらかかるかということですが…

うちはデービスの基準を取り入れていて、技術料が70万。それにドナーの猫を輸入した場合は、さらに20万。あとは薬品代や入院費などでだいたい100万強というところです。ただ最初の臨床例、第一例目が来たとき、おそらく倫理委員会を通らないでしょうね。100万いただきますといったらね。まだ実験レベルだから、技術料をもらわないでくださいと言われると思いますよ。2~3例ぐらい成功例をつくって実績を積んでからでないと、お金は取ってはいけないと。

──そこまでやる先生の情熱はどこからくるものなのですか?

これだけたくさんの腎不全の猫や犬を診ているとね、気の毒というかかわいそうというか…。じつは僕は、結婚したときにうちの家内と一緒に腎臓バンクにドナー登録したのですよ。20年以上前の話だから、まだそんな運動自体がなかった時代にね。  まあ死んでしまった後に、ただ灰になるよりは使えるところは全部使ってもらった方がいいだろうと。それは僕の医療哲学というか、生き方みたいなものだけど、そうやって元気なものがそうでないものを助けるという流れは当然なのではないかと。だから2個ある腎臓の1個をもらって、猫や犬がもう一度人生始められるなら、ぜひやってあげたいなと思うわけですね。ただ、臓器移植の方はマイクロのできる岩井先生に一任していこうという方向ですね。彼女は日々、トレーニングを欠かさずしていますから。ああいう特殊な手術は駄目なのですよ、常にトレーニングをしていないと。だからマウスとかラットとかを使って、血管を縫う練習をしている。彼女なら、ハムスターの腎移植でも全然問題なく手術できるでしょうね。このぐらい小さなネズミの血管をピピピッって縫ってしまうのですから。やはりイザとなったときには、そうした徹底したトレーニングをしている人が執刀するのが一番だと思います。

──もし実現すれば、個人病院としては初めてということになる?

日本ではそうでしょうか。だけど海外ではけっこう行われていると聞きました。一昨年、ドクター・グレゴリーが中心になって、獣医内科学会(ACVIM)の中にジョイントする形で世界動物移植学会というのを立ち上げたときに僕も呼ばれていったのですけど、そこでグレゴリーがアメリカをはじめオーストラリアやイギリスでも、個人病院でやっているところがあると言っていました。  だからなんとか日本でもやりたいですよね。おそらく望んでいる飼い主さんってかなりいると思うのですよ。今は麻布の渡辺先生のところがやめてしまわれたので、あとは大阪府立大がボチボチ始められたぐらいですから、ほとんどできるところがない。ならばぜひ、うちでやってみたい気持ちはあります。

整形から眼科まで幅広い手術に対応

オペ室 機器

オペ室には電気メス、超音波メス等各種機器を取り揃える。

──臓器移植は若い先生に任せて、遠藤先生はどのような分野を?

僕は初心に戻って整形を中心にやっています。うちはとくに専門病院というわけではないですし、一般的な外来も常時受け付けていますから。だけど脊髄の手術だとか、よその病院で治らなかった整形の症例が紹介されてくることがありますので、それは積極的に受けています。 骨折の手術をしたけどくっつかないとか、骨盤がバラバラになってしまったような症例とか…このあたりになると経験がないとなかなか手を出せませんから。宇都宮や福島あたりから、若い先生たちが連れてきますね。

──股関節の手術では、どのような対処をされていますか?

一時期、人工関節が流行りましたよね。だけど結局、再発したり再脱臼になったり、いろいろトラブルがあって、最近は昔ながらの骨頭切除に戻ってきてしまった。僕はもともと人工関節には興味がなくて、今でも動物には向いていないと思っているのです。そんな無理をしなくても、骨頭切除でも十分歩けるようになるのですから。 動物は人間とちがって、前足に体重の6割7割がかかるようになっているのです。だから後足の筋肉さえしっかりしていて痛みさえ感じなければ、人工関節を使わなくても自分の足で十分歩ける。とくに小型犬や猫は、両方骨頭なくても平気でピャーッと階段上っていってしまいます。もっともTHRは大型犬が対象となりますが、人工関節以外に方法がない場合は必要になると思いますけどね。

──椎間板の症例が増えているとお聞きしますが…

椎間板もありますね。僕は整形は自分の分野だと思っていたので、へんな話、若い頃はバカバカ切っていました。もう椎間板ヘルニアだと思ったら全部切っていたけど、今は内科的な治療で8割がた治りますね。なので、あまりむやみに手術しなくなりました。手術するのは、急性でドカ~ンと来たとき。慢性で徐々に徐々に進行してきた子は、内科的治療でけっこう快復しています。 じつは、もう完全に麻痺したダックスだけど、手術ということで預かって、ほんとうは早めに手術する予定だったのですけど、たまたま緊急の手術が続いて2~3日遅れてしまったことがあったのです。で、やむをえずその間内科的治療をしていて、いざ手術をしようとしたら、その朝元気に立って歩いていたのですよ。あれ?いけるじゃん、みたいな…。だから程度の問題もあると思うけど、かなり麻痺が進行していても、きちんと内科的治療で治るケースもあるのだと。治療したのは、ステロイドを大量にどか~んとワンショット、あとはビタミン剤(B群)。それで治るなら、なにも痛い思いをさせてまで手術しなくてもいいだろうと。それからは、手術にはかなり慎重になりましたね。

──眼科もされているとお聞きしましたが…

手術は軟部でも骨折でも眼科でも何でもやります、好きですから(笑)。ただ、専門的に眼科をしているわけではなくて、いちおう眼科の器具も揃えたし、ある程度のことはできるかなということでHPには「眼科もやっています」と書いていますけど、基本的に白内障の手術とか難度の高いものは、超音波吸引器を持っている専門の病院にお願いしています。目というのは診断が大切なので、診断用の検査機器はおおよそ揃えています。あとマイクロ用の手術機械もだいたいは揃っています。目の疾患で来る犬猫はかなりいますので。一番多いのは角膜が傷ついたりする前眼疾患、それから眼瞼のポリープとか腫瘍とか眼瞼形成不全とか、白内障ですね。あと最近は、他の病院で治らないということで来られる患者さんが増えてきた。結局それはみんな、診断を的確にしていないのですよ。だってスリットランプなくて、どうやって眼を診るの? だからすべての手術はできなくても、診断だけはしっかり的確にしなくてはいけない。そのためには専用の診断機器を使わないといけないということですね。スリットランプとか検眼鏡とか眼底鏡とか眼圧計は、開業医レベルでも十分買える機械なのですから。

──目ですこし見てお薬を出すだけの治療では、大きな病気を見逃してしまうこともあるでしょうね。

だから眼圧を測るなんていうのは基本中の基本。眼圧さえきちんと測っていれば、緑内障を見逃すことなんてありえない。眼が充血して痛がっているから結膜炎だろうということで、さんざん治療して失明してしまった状態でうちに回されてくるわけですよ。最初来たときに眼圧さえきちんと測っていれば、ただの結膜炎ではないということはすぐにわかるはずなのに…。あと、眼科の診断するには暗室、暗くなる部屋がないと駄目。人間のお医者さんも眼科は薄暗いでしょ? 光学系の機械で眼を診るわけだから、薄暗くないと見えない。もうひとつ、大切なのはスリットランプという角膜を深度の深いところまで見れる器械があるけど、これを使って見ると前眼部をすごく拡大して見ることができる。細い光源を当てることによって、角膜の表面から内側までが見れるわけです。だから表面に凸凹があったり、あるいは裏側に炎症があったりするのがわかる。うちでは十何年も前から入れてますけど、いくら一般診療といってもこれぐらいは用意していないと、思わぬ見落としをしてしまうよね。

体内の活性酸素をなくす水素結合水

水素結合水

酸化還元電位計で測定 (左)水素結合水ー600mv(右)水道水559mv

──皮膚病への積極的な対応もされていると聞きました。

皮膚病、アレルギー、アトピーですね。じつは今、うちの病院ではH4Oという特殊な水、正しくは水素結合水というのですけど、これを使った皮膚病治療をやっていて、それが思わぬ成果を上げているのです。H4Oは東京のベンチャー企業がつくったもので、普通の水の中に水素を分子レベルで入れることに成功したのですね。イオンではなくてH2という形で入れる。よく誤解されるけど、アルカリイオン水とは違います。酸化還元電位がマイナスになっている。

──酸化還元電位というのは何ですか?

けっこう難しいのですけど、ようするにいま確認されている物質の中で、還元力の一番高いのは水素なのですね。水素は酸素を取り込みやすいですから。いっぽう身体の中にあって、いろいろな病気を引き起こす原因といわれているものに活性酸素がありますね。この活性酸素を除去する効果が一番高いのが水素であると。だから水素を体内に取り込めればいいわけですけど、水素ガスを吸うわけにいかない。そんなことをしたらあっという間に死んでしまいますから。そこで水の中に水素入れて、体内に取り込みやすい形にしたのがこのH4Oというわけです。 これって、もともと燃料電池の研究で水素を安全に保管・輸送する方法として開発された副産物的なものということです。水素は安全な搬送が難しくて、積載したクルマが事故でも起こしたら爆発してしまうでしょ? それを防ぐために、水に水素を入れて安全に運ぼうという発想から生まれたものだそうです。

──燃料電池の方は、なかなかよい成果が上がっていませんね。

燃料電池の方は、すこし将来的にも見込みがないと。ではこれどうしようってなったときに、「水素はすごく還元力が強いから、人間の活性酸素を除去するのにいいのではないか」という声が出た。そこで試しに飲んでみたら、けっこういける。誰もが飲んだら爆発すると思ったらしいですよ。風船みたいに膨らんでバーン!って。でもそれを飲んだ人がいたのですね。それで大丈夫だということがわかって、活性酸素が悪さをしていると思われる病気の人に試しに飲んでいただこうということで、モニターをお願いしたら、とんでもない結果が次から次へと出てきてしまったと。人間の医学部の実験では、糖尿病の人の血糖値が下がってしまったとか、C型肝炎のウィルスがいなくなってしまったとか、アトピーが消えてしまったとか、そういったよい結果がどんどん出てきた。

──それが本当だとしたら、すごい朗報ですね。

僕はたまたまそこの社長と知り合う機会があって、詳細なデータとともに、動物の治療にも使ってみませんか?と提案をいただいた。そこで、たとえ効かなくても害のあるものではなさそうだと思って、スタッフの犬でアトピーの子がいたので試しに使ってみた。そしたらこれが劇的に効いたのですね。それからはいろいろな症例に使ってみましたけど、アレルギー性の皮膚炎とか、外耳炎とかにはほんとうにすごく効く。飲ませたり、患部につけたりというやり方ですね。 ただ高いのですよ、価格が。ステンレスのこんな厚いタンクを使って、ものすごい圧力をかけてつくるので製造コストがハンパではないらしいです。もともと水素(H2)は水(H2O)に入らないはずのものですから、これを水に溶かすために最初すごい圧をかけて、それからボーンと一気に減圧をする。そうすると、水の分子が水素分子を取り入れてしまうということです。水ってすごく不思議なものなのですね(笑)。

──理論的な研究も進んでいるのですか?

H4Oの会社が、奇跡の水とか長寿の水とかいわれている世界中の水を全部集めて分析したそうですよ。そうしたら、共通していることが2つあった。ひとつは水素を大量に含んでいること、もうひとつは酸化還元電位がマイナスだったと。  ようするに、水素が水に溶けることによって酸化還元電位がマイナスに傾くから、それが動物の身体の中にある活性酸素というサビを取ってくれる。酸化還元電位がマイナスということは、酸化を元にもどす力があるということですから。そしてそれが動物の治癒力を快復する。その水自体が何かを治すということではなくて、身体を元の状態に戻してやれば、自分の免疫力で立ち直ることができるということですね。

──活性酸素は、加齢とともに増えてくるといわれていますよね。

今になって、ようやく歳とともに活性酸素が増えてきているということが証明されつつある段階ですね。活性酸素を測定するには、フリーラジカル分析測定機という特殊な機械を使わなければならないわけですけど、これが何千万もするものだったので、一般的にあまり普及しなかった。それがつい最近、イタリアで開発された簡易型のFRAS4という活性酸素を測る機械が出てきたので、一気に研究が進んだと。うちの病院ではその機械を入れて、いろいろな症例の子の活性酸素を測ってデータを取っています。すごく興味深いデータが出ていますよ。

──H4Oを飲む前と飲んだ後では、活性酸素の量が違う?

あきらかに犬猫の活性酸素は減ります。犬猫の正常値ってうちしか持っていないかも…。このことは人間の方のフリーラジカルセミナーでも発表しましたし、僕らはきちんと使用前と使用後で調べて、活性酸素が下がっているという科学的なデータを持っています。ただ、これはどの病気に効くとかではなくて、常に健康を維持させるために日常的に摂取するのが望ましいというものですね。

自分で治そうと動物たちが思えるような治療を

水素結合水

シンクの下に設置された機械で、 蛇口をひねると水素結合水が。

──先生は、これをどのような形で皮膚病治療に使われているのですか?

じつは、H4Oをつくる簡易型の機械というのもあって、これは水道ひねるとその水が出てくるという装置なのですね。うちはこれを導入して、皮膚病の子を洗うという治療を行っているわけです。洗って、その水を飲ませる。しかしながら、この機械は簡易型なので、これでつくった水素結合水は水素の定着が悪くて、保存がききません。あっという間に水素が抜けてしまう。だからその場でしか使えないということですね。人間の方では、兵庫県にこの簡易型の装置を使ってアトピーを治療する専門病院が立ち上がっています。ビジネスホテルみたいな専用病棟に、お母さんとお子さんが1週間から10日間寝泊まりして、その水でシャワーをして飲んで過ごす。食事も低アレルギー食にする。すごくいい結果が出ていると聞いています。

──目に見えるような効果がありますか?

水素結合水を使ってアトピーの子をシャンプーすると、すごくいいです。局所作用があるのですよ。たとえば火傷とかも見る間に治ってしまう。先日、ワルファリン(血液抗凝固剤)を飲んでいる飼い主さんが来て、火傷も酸化のひとつだからこの水が効くはずだよねという話をしたところ、たまたま家で火傷をされてすぐにH4Oをつけてみたと。そうしたら、ほんの1週間できれいに治ってしまいましたということで見せに来られた。その人はワルファリンを飲んでいて血液が固まりにくいわけですから、そんなに早い回復は考えられないわけですね。動物の治療で実感された方は、自分でもどんどん飲まれるようになってきていますよ。また人間の方の話ですけど、独協医科大の非常勤講師でもある藤沼秀光先生という人は、人間の治療にH4Oを使っておられて「食道ガンが3分の1ぐらいになった」と言われていました。また、この会社に脳外科のお医者さんとその患者さんがお礼に来られたと。話を聞いてみると「手術不可能の脳腫瘍が4つあったのが消えてしまった」そうです。この先生は、なぜこのようなことが起こるのだろうと思って話を聞きに来られたわけですが、このときたまたま胆石を持っておられて、試しに自分でも飲んでみたらそれもきれいに消えてしまったそうです。 ですからけっこう劇的に効く人もいるみたい。100人が100人同じように効くわけではなくて、あくまでも自分の治癒力なのですけどね。

──病気は自分の治癒力で治すということですね。

じつはなんでもそうなのですよ、病気は最終的には薬が治すのではなくて、本人の免疫力で治しているのですから。僕らはそれをすこし手助けをしているということでね。これは僕の持論ですね。どんなにうまく手術したって、その傷を本人が治そうとしなければ治らない。よい例が骨折ですよ。ほんとうにきちんと手術しているはずなのに、全然骨がつかないと。いろいろ検査してみると、まったくその足を使っていなかったということがあるのです。どんなにしっかり手術をしても、自分で治そうという気持ちや自己治癒力が落ちてしまっていると、何をやっても駄目だということです。だから僕らは、これをグーッと高めてやるような治療をしていかないといけませんよね。

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