遠藤 薫 先生からの回答
こんにちは。
人と動物で大きく異なることは、二本足立ちか四足かです。このことは、椎間板に対する力学的な違いがあります。つまり、動物では椎間板は重力に対して平行に位置していますが人では垂直になります。また、椎間板の圧迫破壊試験でも正常な椎間板髄核であればかなりの圧力に抵抗しますが、髄核の変性が進むにつれ繊維輪のみに圧力が加わる事になります。
椎間板ヘルニアの発生機序については今のところあなたが記載されている通りです。
私見ですが、変性は異常であり、変性によって椎間板ヘルニアが発生すると考えていいと思います。
2007/03/15 11:10 参考になった! 0
投稿者 きなパパ さん からの返答
ご回答ありがとうございます。
2型に限定すれば繊維輪の髄核内圧上昇による変性は我々人間の方が、常に圧が掛かる分気をつけなければならないということですね。
私自身にも影響することですから、勉強になりました。
2007/03/22 11:10
是松 壮一郎 先生からの回答
こんにちは、きなパパさん。
さて、椎間板ヘルニアの原因遺伝子として、CLIPのスレオニン型(正確にはCILPタンパクの395番目のアミノ酸がスレオニンに変わっているタイプ)の発表がされていますが、このCLIP蛋白の椎間板変性への関与の発見は発表されてまだ間が無い知見ですね。獣医学分野での遺伝子解析はまだこのレベルまでは為されておりません。遺伝的因子の関与は示唆されているものの、大勢が統計的な発表によるもので、まだまだ再生蛋白の遺伝子タイプの研究までは遠い道のりと言わざるを得ませんね。
またヒトでのCLIPのスレオニン型以外のヘルニア関与因子の研究もまだまだ途中課程だということ、ご理解下さい。
きなパパさんが今回あげてくださったハンセン分類によるヘルニアの分類ですが、人間のヘルニアにも同じような分類があり、一般にI型を脱出型、II型を膨隆型と呼んでいます。簡単にいえば、髄核を取り囲む繊維輪にひびが入るか、入らないかといった違いだと思ってください。髄核、繊維輪を含む椎間板の変性によりヘルニアの発症があるのは、犬も人間も同じです。
CLIPのスレオニン型では、TGF-βに対する抑制作用が強いため、機械的刺激などで失われた軟骨細胞や、基質の補充が間に合わないため、ヘルニアになりやすいというのが理化学研究所の発表ですが、ヘルニアの原因としては、それだけではありません。レポートにもあるとおもいますが、CLIPがスレオニン型のばあいは、ヘルニアになるリスクが1.6倍であるというのが今回挙げてくださった発表の骨子です。つまりは、スレオニン型ではなくても、ヘルニアになることは充分あります。
>>2.トラブルのトリガーが椎間板の変性なのか?軟骨細胞・基質の量なのか?
椎間板変性の一つとして、軟骨細胞・基質の減少があります。その他にも、硝子様軟骨の進入などもありますが、それらを大きくまとめて椎間板変性と呼んでいます。それに伴う脊柱管の圧迫からさまざまな症状やトラブルが出てくると思ってください。
細胞学的な変化や解剖学的な変化、どこに着目しているかでいろいろな治療法をいろいろなアプローチで研究されています。獣医学的分野で最新の知見を述べることが出来ないのが残念ですが、我々獣医科臨床家を含めて、少しでも、難病が無くなっていくように頑張らねばなりませんね。
以上、参考になれば幸いです。
追記(3/16)
追加の質問をいただきましたので、お答えしますね
>>例えば、骨組織がリモデリングされるように
>>弾力性の減少した繊維輪に損傷が起きる前に、
>>損傷にならない程度の刺激(運動)を与えることによって
>>リモデリングされたりはしないのでしょうか?
もともと持っている組織の代謝機能を用いたリモデリングですが、それを運動などの機械的刺激により行なうのはかなり無理があると言えると思います。もともとが、椎間板は独自の栄養血管を持たない代謝スピードのゆっくりとした組織ですのでその再生の評価も難しいところに加え、適度な機械的刺激の指標の設定が難しいと思います。
フリスビーやアジリティなどの激しい運動による椎間板への負担はダックスなどの小型犬にはかなり大きいものである可能性は大きいと思います。もちろん、キャッチや着地の際の姿勢の取り方によっても負担は個々で異なると思いますし、それらの激しい運動を禁止した方がいいと言っているわけではありません。飼主さんが、それらの運動が犬にとっても椎間板だけでなく、いろいろな組織にある程度のストレスをかけていることを認識しながら、オーバーワークにならないように気をつけることが大切だと言うことです。
愛犬は飼主さんが喜んでくれることを何よりの喜びと感じます。そのため、フリスビーやアジリティの運動をしている子は往々にしてオーバーワークになりがちです。
お母様の術後の経過も気になると思いますし、今後のKinakoちゃんとの遊びに対する考え方の問題もありご質問いただいたのだと思いますが、以上のことを念頭におかれて今後もKinakoちゃんと楽しい時間を過ごしていただけることをお祈りいたします。
2007/03/15 21:58 参考になった! 0
投稿者 きなパパ さん からの返答
ありがとうございました。
輪切りの話と横から見た話だったのですね。ようやく理解が出来ました。
「ひびが入るか?入らないか?」ですが我が家のダックスは現状で4歳ですから、
ひびの心配は無さそうですが、膨隆の可能性は他犬種と同様に否めない状況のようです。
そうなると、髄核の内圧膨張を軽減し、膨隆を防ぐことを考えれば、動かさないのが
一番良さそうにも思えてしまうのですが、例えば、骨組織がリモデリングされるように
弾力性の減少した繊維輪に損傷が起きる前に、損傷にならない程度の刺激(運動)を
与えることによってリモデリングされたりはしないのでしょうか?
こちらの規定で再度の質問は禁止になっていますので、もしお教え頂けるようでしたら
お答え頂ければ幸いです。
2007/03/22 09:58
椎間板ヘルニアの発症プロセスについて
このサイトはいつもとても参考にさせて頂いております。
今回の質問は、私の飼っているダックスフントという犬種で発症率が
高いと言われる、椎間板ヘルニアについて、その方面を専攻されていた
獣医の方へ予防医学として教えて頂けたらと思い質問しております。
我が家の犬のこれからの飼育方針にも関わる、私にとってはとても重要
な悩みなので、率直な考えをお聞かせ頂けたらと思っております。
とりあえず比較内容をまとめてみました。
獣医学で一般的な椎間板変性=異常とする考え方
ハンセン1型
軟骨異栄養性犬種では2歳までに椎間板の軟骨様変態が起こる。
椎間板が変性を起こす→脱水し、随核に硝子様軟骨が侵入。
随核のゼリー状の構造は乾酪状の物質に変化→石灰化。
椎間板の衝撃吸収能が失われ、同時に繊維輪も弱くなる。
椎間板に負荷が加わると破れた繊維輪から随核が飛び出し脊髄を圧迫。
ハンセン2型
軟骨異栄養性犬種以外の犬種
椎間板が変性を起こす。→脱水し、随核に繊維軟骨が侵入する。
この変化は繊維様変態と呼ばれ、随核は変性するが、逸脱することはまれ。
過形成を起こした繊維輪が脊髄を圧迫する。
この変化は慢性的に進行する。
理化学研究所(下記サイトより比較の為に抜粋)
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2005/050502/index.html
椎間板の変性で、二足歩行をするようになった人類。
機械的ストレスにより椎間板は日々傷害を受け、その軟骨細胞、基質が減少。
成長因子(TGF-β)が、軟骨細胞を分化→基質を産生能力を上げ、この減少を補償。
しかし継続し続けると、異常な軟骨の増大、骨化、腫瘍の発生などの問題を引き起こす。
その調整、制御機構がCILP。椎間板においてTGF-βの調整を担う。
Thr型のCILPでは、TGF-βの抑制作用が強すぎるために、変性を起こし易い。
この2者の考え方には、
1.椎間板の変性を異常とするのか?進化の過程とするのか?
2.トラブルのトリガーが椎間板の変性なのか?軟骨細胞・基質の量なのか?
という点で大きく違っています。
確かに犬と人間・・・違うと言えば違うのでしょうが、それほど違いがある生き物
だとは思えません。
そこでお聞きしたいのは、最新の獣医学では椎間板ヘルニアについてどのような
考え方がされているのか?ということです。
先日、私の母親が頚椎部のヘルニアの手術を行ったので、人間の方も実は気になって
おります。(これは来週にでも医師から詳しく聞けそうです)
あくまで理論としてでいいのでお教え頂ければ幸いです。